指値オペを連発して円安を加速させる日銀
日銀は3月28日午前に10年国債の利回り0.25%での「指値オペ」を通知したが応札はなかった。ところがその後、市場利回りが0.25%まで上昇すると午後に再度通知し、今度は645億円の応札があり全額を買い入れた。1日に2度の「指値オペ」は初めてである。
それを受けて朝方1ドル=122.20円前後だった円相場は午後3時前には123.25円まで下落していた。
さらに日銀は午後4時過ぎには翌29日から31日までの「連続指値オペ」を予告したため円がさらに急落し、午後6時前には1ドル=125.10円となった。2015年8月以来の円安水準である。
日銀は2016年9月に導入したイールドカーブ・コントロールで短期金利をマイナス0.1%、長期金利(10年国債利回り)をゼロ%近辺に維持したまま現在に至る。導入当時は10年国債利回りがゼロ%を基準に上下0.1%を超えて変動しないよう、とくに上限に近づいた時には0.1%で「無制限」に買い入れることにしていた。これが「指値オペ」で、実際に2018年7月30日には1日で1兆6403億円も買い入れている。
日銀は2021年3月19日に「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」として、イールドカーブ・コントロールの水準は維持したまま10年国債利回りの変動幅を上下0.25%に拡大し(つまり「指値オペ」の利回りが0.25%となる)、同時に「連続指値オペ」を導入している。それが今回初めて発動されることになる。
当時の日銀の発表文を見ると、10年国債利回りの許容レンジを拡大することにより流動性が高まると説明しているが、上限利回りが0.1%から0.25%に上昇するため金融緩和の「後退」と受け止められなくもない。そこで「指値オペ」をさらに強化する「連続指値オペ」も導入したようである。
しかし現時点では物価上昇が加速しているため、ほとんどの中央銀行が金融政策の「正常化」に取り掛かっている。FRBも3月16日のFOMCで0.25%利上げしてゼロ金利政策を解消し、さらに2022年中に残る6回のFOMCすべてで利上げすると示唆していた。
一方、日銀は3月18日の政策決定会合後の記者会見で黒田総裁が、長く掲げてきた「2%の物価上昇目標の実現が視野に入ってきた」としながら「金融緩和の修正は全く考えていない」と発言したため、円相場は連休明けの22日には2016年2月以来の1ドル=120円台となり、先週末の25日のNY終値は1ドル=122.12円まで円安となっていた。
そして28日には日銀の「1日2回の指値オペ」と「連続指値オペの予告」で円相場は一時1ドル=125.10円まで急落した。円相場は2014年12月から2016年2月まで1ドル=120円台となっており、2015年6月5日には1ドル=125.86円と「21世紀の最円安」となっていた。
実はこの直後に黒田総裁は「(125円から)さらに円安に振れることは、なかなかありそうにない」と発言し、そこから125円前後が「黒田ライン」として意識されるようになっている。28日の円相場も瞬間125円を超えたが、そこから123円台まで戻っているのもその影響かもしれない。
しかし今回は物価上昇加速で、ほぼ世界中の中央銀行が利上げを開始し、ほぼ世界中の長期国債利回りが「かなり」上昇している中で、日銀だけ強引な「連続指値オペ」まで動員して10年国債利回りの上昇を抑え込み、結果的に(それが主目的かもしれないが)円安を加速させていることになる。
ロシアのウクライナ侵攻で原油などエネルギー価格や穀物価格の上昇が「さらに」加速している中での円安加速は、日本経済にとってマイナスの方が多い。今後は「円安加速」「物価上昇」「経済低迷」「さらなる円安」という負のスパイラルとなる恐れも強い。
28日には松野官房長官が「最近の円安進行を含め。日本経済への影響を緊張感もって注している」と発言しており、政府と日銀のニュアンスも違っている。
28日のNY市場は原油価格がやや下落したため10年国債の利回り上昇も止まり、円相場も1ドル=123.90円前後で終っている。いずれにしても日本の金融市場(とくに円相場)から目が離せない。
2022年3月29日