| 中央銀行・金融情勢・提言編 | 米国 | 2022年4月06日 |
いよいよFRBの総資産縮小が始まる
昨日(4月5日)のNY市場では、10年国債利回りが2019年3月以来の2.6%に接近し、NYダウが280ドル安の34641ドル(終値、以下同じ)となったが、ウクライナ侵攻後の安値である3月8日の32632ドルよりまだ2009ドル(6.1%)も高い。
また長期金利上昇を受けドル高も再燃し、本日(4月6日)東京時間午前中には円相場が1ドル=124円に再び接近し、対ユーロでも1ユーロ=1.089ドルまで上昇している。
昨日のNYダウ下落の最大理由が、FRBで最もハト派とされるブレイナード理事(副議長に指名されているが議会承認が済んでいない)の「FRBは5月にも急速な総資産縮小に取り掛かる」との発言である。わざわざ最もハト派のブレイナード理事に発言させたところにFRBの「焦り」が感じられる。
FRBは3月FOMCの0.25%利上げでゼロ金利を解消しており、年内に残る6回のFOMCすべてに利上げがあるとドットチャートが示している。しかも最近はその利上げペースがさらに加速している。ウクライナ侵攻によりエネルギーや穀物価格が急上昇しており、2月で前年同月比7.9%上昇していたCPIがさらに加速することが明らかだからである。
しかし今回の物価上昇は供給要因と手厚い失業保険加算金で潤った労働者が職場に復帰せず人手不足による賃金上昇が続いているからであり、多少政策金利を上げたところで急に落ちつくものではない。40年前にはボルカーFRB議長が短期金利を20%超、10年国債利回りを13%まで上昇させる超金融引き締めで。1981年に13.5%だった年間物価上昇率を1983年には3.2%まで抑え込んだ。
しかし現在では現実的ではない。というより10年国債利回りは40年前の13%をピークに現在まで(その後の金融引き締め期を含めて)趨勢的に下落している、これは米国の潜在成長率が趨勢的に低下し現在は2%程度となっているからである(コロナにより落ち込んだ経済活動の「回復需要」が終わればそんな成長率に戻るはずである)。つまり現在の米国経済は大幅な(例えば2.5%でも)利上げに耐えられない。物価上昇が収まる前に経済が失速してしまうはずである。
そこで「もう1つの金融政策正常化」であるFRB総資産縮小を急ぐわけであるが。実は株式や不動産など「実物資産」に対する影響は、こちらのほうが「はるかに」大きい。
コロナ直前の2020年2月末に4.2兆ドルだったFRB総資産は、直近(2022年3月末)には9.0兆ドルまで膨らんでいる。つまりこの2年間でFRBは4.8兆ドルもの資金を市場に供給しているが、その金額は明らかにコロナから経済活動を回復させるために必要な金額を大幅に超えており、その過剰な資金は株式など実物資産に流れ込みレバレッジをかけて「資産バブル」を形成していった。
ここでFRB総資産が「急速に」縮小するなら、今度は逆のレバレッジをかけて株式など「資産バブル」を収縮させるはずである。ウクライナ侵攻やエネルギー価格の急上昇それにFRBの利上げ加速予想にもかかわらず世界の株式市場が堅調な理由も、FRB総資産が膨らんだままだからである。蛇口の閉め忘れである。
そこが「急速に」修正されるなら、今度こそ株式や不動産など「資産バブル」が急激に修正され、そちらのほうが物価沈静化にも効果があるはずである。
現在でもFRBは保有債券が償還になると自動的に再投資しているため、総資産縮小はその再投資を減らすことによって行われる。しかし市場からFRBが資金を吸収することは同じである。そして実際の吸収額より「市場から資金が引き揚げられる」との心理的マイナス効果の方が大きいはずである。
そんなFRBの総資産縮小がいよいよ5月から始まる。それも「急速に」だそうである。身構えておく必要がある。
2022年4月6日