トランプ大統領は現地時間の10月1日にコロナ感染が明らかになり、翌2日に米軍医療センターに入院するも、5日夕方には退院してホワイトハウスに戻ってしまった。
トランプ大統領本人は「体調は良好」と強調するも、映像を見る限りはそうでもない。またホワイトハウスの医療スタッフの発表も歯切れが悪い。何よりもホワイトハウス内に感染者が増え、国防総省(ペンタゴン)のトップクラスも自主隔離を強いられている。
これまで「不謹慎」なので記事を控えていたが、米国でも「不測の事態」に関する記事が増えているため、検証しておくことにする。
以前にも書いたことがあるが、大統領選の投開票方法、勝者(実際は選挙人獲得者)決定などの権限はすべて州政府にある。訴訟は基本的に州裁判所で争われるが、2000年の大統領選挙のように最終的に連邦最高裁判所の判断となることもある。
11月3日の大統領選挙は各州の選挙人を選び、その選挙人が12月14日に投票し来年1月6日に開票されて大統領、副大統領が選ばれる間接選挙である。実際は11月3日の投票結果が確定すれば、自動的に新しい大統領、副大統領が実質確定する。ところが選挙人は半分ほどの州では誓約した大統領、副大統領候補に投票することが義務づけられていない。実際に2016年にはトランプに対する造反が10名も出た。
さてこの状態で大統領(あるいは副大統領)候補が「死亡など職務遂行が不能となる事態」に陥ったら、どうするのか? すでに期日前投票と返送されている郵便投票は合計300万人を超え、大統領選に投票するための資格登録はすべての州で終了している。
まず11月3日の投票日は変更できるのか? 米国憲法は大統領選スケジュール決定を議会に委ねているので、上下院が賛成すれば変更できる。ところが下院で多数を占める野党・民主党が変更に応じるとは思えず、現実的は不可能である。
「不測の事態」が11月3日の投票前であれば、共和党、民主党とも全国委員会で候補を選び直す。投票日まで時間がなく、両党とも3000人ほどいる代議員を招集している余裕がないため、共和党168名、民主党450名の全国委員会委員の投票で決める。常識的には過半数の獲得で新しい候補となる。
ここでトランプ大統領とペンス副大統領の任期は来年1月20日まであるが、ペンスが自動的に大統領候補になるわけではない。まあ常識的にはそうなるはずで、ペンスは大急ぎで副大統領候補を決める必要がある。しかし来年1月20日までの大統領には、自動的にペンスが昇格して第46代大統領となる。史上最短の大統領となる可能性もある。
11月3日の大統領選でトランプとペンスが勝ったあとに、トランプが「不測の事態」に陥った時は、その時点で新副大統領のペンスが新大統領に昇格して12月14日に投票される(来年1月6日に開票される)選挙人投票となる。しかしこのケースはややこしい。
選挙人投票は大統領候補と副大統領候補を別々に選ぶ。また先述のように半分ほどの州の選挙人は誓約した候補者への投票が義務づけられていない。つまり大統領候補のトランプに投票すると誓約した選挙人がそのままペンスに投票し、副大統領候補のペンスに投票すると誓約した選挙人が「現時点では未定」の副大統領候補にそのまま投票するかどうかは、各州法の規定による。しかし大半の州では明確に規定されていない。
最もありうるのは、どちらの大統領候補も副大統領候補も総勢538名いる選挙人の過半数を獲得できないケースである。その場合は規定により下院議員による投票(副大統領は上院議員の投票)となるが、どちらも各50州とワシントンDCを1票とする51票の過半数を得た候補が当選となる。
この方式だと大統領を決める下院の現在の構成では共和党が26州と過半数であるが、実際に投票する下院議員は同じ11月3日に全議席が改選されるため、現時点で予想できない。上院も3分の1が改選されるため同じである。
そうでなくても郵便投票を巡る訴訟合戦が予想される今回の大統領選に、またトランプの「不測の事態」という新たなカオスが加わったかもしれない。
トランプのコロナ感染を受けて世論調査ではバイデンのリードが9%まで広がっている。
2020年10月8日