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米国金融市場からドルが消えてしまう恐怖

| 中央銀行・金融情勢・提言編 | 米国 | その他 | 2020年3月19日 |

 2月下旬から始まった世界的な株価急落は、もちろんコロナウイルスの世界的蔓延による経済低迷を懸念したものであるが、同時に(というよりこれが最も怖いはずであるが)世界的なドル資金調達リスクの急激な増大を懸念したものである。

米国はドルが基軸通貨であるため、昔から貿易赤字や財政赤字がいくら膨らんでも相手方にドルを渡しておけば誰も文句は言わなかった。つまり貿易赤字や財政赤字による「歯止め」がないため米国は常に拡大的な経済政策が続けられ、その結果、連邦政府だけでなく民間企業、個人に至るまで負債(ほとんどがドル建て)が野放図に積みあがっていった。

また低開発国は自国資金で資金調達ができないためドル建ての国債や社債を発行し続けたため、「気が付けば」米国内だけでなく世界中で膨大なドル債務が積みあがっていた。ドル債務が積みあがるということは、常にドルの(主に短期資金の)需要が大きいことになる。ドルを貸し出している米国内外の銀行は、常にそのドルを短期で調達して貸し出しているため、「気が付けば」連日膨大なドルの短期資金需要(不足)が発生することになった。

 変調は2019年秋頃に始まっていた。FRBは2019年1月に利上げを止め(その時点の政策金利は2.25~2.5%)、さらに2019年は7,9,10月と0.25%ずつ利下げを行い1.5~1.75%の政策金利としていた。

 ところが2019年10月の利下げの少し前から唐突に短期金融市場の資金不足が拡大し、FRBは連日レポ市場に500~1000億ドルと(その直前に比べればはるかに大量の)短期資金を供給し、何とか短期金利の跳ね上がりを抑え込みつつ利下げを行っていたことになる。

 ところが2020年2月ころから米国でもコロナウイルスによる景気懸念が出たため、FRBは3月3日に急遽0.5%の緊急利下げを行ったものの、短期金融市場に連日1000~1750億ドルの資金供給に迫られるようになった。

 コロナウイルスによる米国および世界経済の減速懸念が出てくるとともに、米国内でも低開発国でも「いつの間にか」ドル債務が巨額に積みあがっていることが再認識され、ドルを短期で調達して長期で貸し出している米国内外の(低開発国の中央銀行を含む)銀行が急にドル資金をとり急ぎ、逆にドルの貸し出しを抑制するようになっていった。米国の短期金融市場における資金の貸し借りは原則翌日物であるため、ドル調達に不安を覚える銀行は毎日びくびくしながらドルを調達していたことになる。

 FRBも「こういう悪循環」は思い切って断ち切るべきと考え、3月11日には翌12日と13日に合計1兆5000億円ものドル資金を1~3か月という「比較的長期」で供給した。

そして3月15日(日曜日である)にはさらに1.0%の緊急利下げを行い、政策金利を0.0~0.25%と2015年以来のゼロ金利に戻した。さらに2019年10月から短期金融市場のドル不足に対応するために毎月600億ドル買い入れていた米国短期国債を長期国債まで拡大し、7000億ドル買い入れるとして(1年間は続けるという意味だと思うが)2014年以来の量的緩和にも踏み切った。

ところが2月24日から暴落していた株式市場はさらに下げ幅を広げ、3月18日のNYダウは2017年2月以来の20000ドル割れとなってしまった。つい1か月ちょっと前の2月12日には、29551ドルの史上最高値を記録していた。

さらに短期金融市場の混乱も一向に収まらず、FRBは緊急利下げの翌日の3月16日からも連日5000億ドル規模の(これは翌日物がほとんどであるが)短期資金の供給を行っている。さらに3月17日には企業の発行するCPを最大1兆ドル買い入れると決定し、翌18日夜半にはMMFにも直接資金を供給することにしている。まさに「なりふり構わぬ」資金供給である。

つまり米国だけでなく世界中でドル需要(不足)が加速していることになり、それが世界の金融市場をさらに不安定にして世界的な株安が続いていることになる。

それでは「そんなに世界的にドル不足であるなら、米国中央銀行であるFRBがどんどんドルを短期金融市場に供給すればいいだけではないか?」と思われるはずであるが、コトはそれほど単純ではない。

FRBが短期金融市場に供給できる資金は、FRBに直接口座がある各銀行(外国銀行・中央銀行を含む)がFRB預けっぱなしにしているReserve Balances(3月11日現在で1.8兆ドル)、それに2.5兆ドルある保有国債のうち発行ドル紙幣額(1.8兆ドル)を超える国債をレポ市場で資金調達するか、ドル資金が潤沢である海外中央銀行(具体的に言うと日銀)や米国内の機関投資家からスポットで調達してくるしかない。

 現時点のReserve Balancesは3月12~13日に供給した1兆5000億ドル(しかも1~3か月物である)だけで「ほとんど枯渇した」はずである。ただそこは日銀が外貨準備からかなりのドル資金を融通したはずである。日銀が3月16日の午後に政策決定会合を前倒した理由は、「表に出せない」外貨準備の「流用」を決議するためだったはずであるが、外貨準備はそもそも全額FRB(正確にはNY連銀)に預けてあるため表面的にはバレない。

 しかしその後も短期金融市場におけるドル需要(不足)は一向に落ち着かない。その理由の1つは、Reserve Balancesには政策金利のレンジ中央値くらいの不利がされていたが(つまり2020年2月までは1.6%くらいだった)、今回のゼロ金利でその不利もほとんどゼロになってしまった。つまり3月15日までの金融政策変更は、短期金融市場の大量資金供給と量的緩和の再開は理にかなっていても、ゼロ金利復活はそのFRBから資金を流出させる「世紀の愚策」だったことになる。

 米銀大手がReserve Balancesにドルを置く理由がなくなり(つまり引き揚げてしまう)、自行の融資分の保全のためにも手元で保有するドル資金を厚くするはずだからである。

 つまりFRBは現時点でも短期金融市場に供給する大量のドル資金の調達に四苦八苦しているはずで、これ以上ドル需要(不足)の増大と米銀大手のReserve Balances引き揚げが重なれば、今後はドル資金を供給したくてもできなくなることになる。

 まさに目の前に「米国金融市場からドルが消えてしまう恐怖」が迫っているわけである。

2020年3月19日