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サウジアラムコの石油施設が空爆された

| 資源・商品市場編 | 2019年9月16日 |

 9月14日未明(日本時間・同日午前)、サウジアラビア東部のペルシャ湾に近いアブカイクとクライスにある国営企業・サウジアラムコの石油施設が空爆を受けて炎上し、日量570万バレルの生産が停止している。

 この数字はサウジアラビア全体の現在の産油量(980万バレル)の半分以上、全世界の生産量の5%以上に相当する量で、翌15日の原油先物価格は一時20%近く上昇したが、トランプ大統領が戦略備蓄石油の放出を示唆したため、現時点ではWTI価格で1バレル=60ドル台半ばとやや落ち着いている。空爆前は1バレル=55ドル前後であった。

 この空爆に対しては、サウジの南隣にあるイエメンのシーア派反政府組織・フーシが犯行声明を出しているが、米国政府はフーシの後ろ盾であるシーア派の盟主であるイラン、同じくシーア派の一派(アラユィー派)であるイラクのアサド政権の関与を強く疑っている。

 サウジアラビアはスンニ派の盟主で(というより最大スポンサーでメッカ、メディナのイスラム教2大聖地を保護している)、イエメンの暫定政府、イラクの反政府組織を同盟国である米国とともに支援している。

 さてトランプは9月10日、とくに対イランの強硬論者で空爆もたびたび進言していたボルトン国家安全保障担当補佐官を更迭している。米国は2018年5月にオバマ政権時代に締結したイラン核合意を破棄し、経済制裁を再開しているが、それも(辞任したマクマスターの後任として)同職に就任直後だったボルトンの強い進言を受け入れたものだった。

 そしてトランプはイランのロウハニ大統領との会談にも意欲的で、その成り行きによっては対イラン経済制裁の一部を解除する用意まであったはずであるが、再びその行方が分からなくなってしまった。ただイランは今回の空爆への関与を完全否定している。

 イランはイスラム教・シーア派の教えを国家の柱とする宗教国家で、その最高指導者は1989年からその座にあるアリー・ハネメイ師(その前任は1979年のイラン革命で帰国したホメイニ師)である。

 ちなみにこのアリーという名前は、661年に殺害された第4代・正当カリフの名前で、そこから現在に至るまでアリーの血筋を最重要とするシーア派と、シーア派と対立するウマイヤ朝から始まるスンニ派との「争い」が延々と続くことになる。

 またイランは正規軍のほかに最高指導者らを守る革命防衛隊がいる軍事大国である。とくに革命防衛隊は世界最強と言われており、軍事活動以外にイランの主要産業を直接統治する軍産複合体でもある。イラン核合意締結後のオバマ大統領も、この革命防衛隊とその関連企業への経済制裁は解除しなかった。

 さてそこでサウジアラムコの石油施設への空爆に戻る。

 日本では何一つ新しい情報が入ってこないので、もっぱら外電に頼っているが、空爆はドローン10機によって行われたとされる。これはドローンといっても巡行ミサイルまで搭載できる無人爆撃機による攻撃に近かったと思われる。

 その無人爆撃機が、声明通りイエメンから飛び立ったとすれば、近い方の石油施設があるクライスまででも直線距離で770kmある。届かない距離ではないがサウジアラビアの上空を長時間飛ぶ必要があり、サウジアラビアが全く気づいていなかったようで違和感が残る。

 だったらイラン本土あるいはイラク政府のあるバクダッドから飛ばした方が距離的にも近く、何よりもサウジアラビア上空を殆ど飛ぶ必要がない。ちなみにこの無人爆撃機ともいえる攻撃用ドローンの最大生産国は中国で、中東を含む世界各国に輸出している。

 こうやって考えてきても、依然として犯行の動機や本当の犯人のイメージが全く見えてこない。

 確かにシーア派の盟主であるイランと、スンニ派の最大スポンサーであるサウジアラビアは、永遠に仲直りすることにない「不倶戴天の敵」ではあるが、それでイランが(支援するフーシを使ったとしても)サウジアラムコの石油施設を攻撃したと考えては単純すぎる。

 原油価格が上昇すればメリットを得る国としてはロシアがあり、確かにロシアはイラクのアサド政権を支援しているが、それもちょっと議論が飛躍している。

 また関係がないと思うが、サウジアラビアのファリア石油相も9月7日に解任され、ムハンマド皇太子の異母兄であるアブドルアジズ・ビン・サルマン王子と交代したばかりであった。いよいよサウジアラムコの上場利益をサルマン王家で独占する準備かと思われた。

 だいたい中東で石油が絡む事件は、そのうち噂が消えてその背景もその後の動向もわからなくなってしまうことが多い。

 そうはいっても、今回の背景をもう少し慎重に探ってみることにする。

 

2019年9月16日