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混沌とする中東・イラン情勢で再確認しておかなければならないこと

| 世界情勢 | 2020年1月18日 |

 1月3日にトランプ大統領がイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官を空爆で殺害し、「英雄」を殺害されたイラン国民の怒りに配慮してイラン政府が1月7日にイラクの米軍基地をミサイル攻撃した。その時点で全面戦争の恐れまであったものの1月8日のトランプ大統領の会見は全面戦争を回避するものだったため、世界に(特に株式市場に)安心感が広まっている。

 これが今回の米国とイランをめぐる「混乱」の前半部分で、日本を含む世界で広く理解されている見解である。

 イランとは1979年のイラン革命で、親米の(というより贅沢三昧で米国に完全に篭絡され、英国に集中していた石油利権を米国に差し出した)ムハンマド・レザー・シャー(パーレビ国王)が追放されて米国に亡命し、イスラム教・最高指導者のホメイニ師が亡命先のフランスから帰国し、イスラム教(シーア派)を中心とする宗教国家に生まれ変わっている。

 さらにそのイスラム教・最高指導者の座は1989年からハメネイ師に禅譲され、最高指導者の親衛隊であるイスラム革命防衛隊とともに「イラン全国民から絶対的な支持を受け、イラン全国民の結束も堅い」と広く信じられていた。

 ところが実際はかなり違っているようである。確かにイランでは2002年に発覚した核開発疑惑により世界から経済制裁を受け、2015年の「イラン核合意」で一部が解除されたものの、トランプ大統領が2018年5月に「イラン核合意」を破棄し経済制裁を復活させている。つまり長期間にわたる経済制裁がイラン経済とイラン国民の生活を疲弊させ、イラン国民の不満は限界に近づいていてもおかしくはない。

 イランは国際政治から半ば孤立しているため、その国内情勢が海外に正確に伝わることが少ない。つまりイラン全国民はハメネイ師を最高指導者とするイスラム教(シーア派)を中心に結束し、イラン革命防衛隊はイラン全国民から熱狂的に支持されているという「常識」を再検証する必要が出てくることになる。特にイラン革命防衛隊はイランの主要産業も支配する「富が集中する軍産複合体」であり、困窮するイラン国民から圧倒的に支持されているとも考えにくい。

 イランは、イスラム教シーア派の盟主としてイラク、シリア、あのレバノン、イエメンに散らばるシーア派過激組織をコントロールし、反米、反イスラエル、反スンニ派(サウジアラビアなど)の中心という「外面」は概ね正しい。しかしイラン国民の不満がたまり、その批判はハメネイ師を中心とするイスラム教(シーア派)のイラン政府と、イラン革命防衛隊に向かっているという「内面」は、世界に向かって「隠匿」されていることになる。ここを正確に見極めておかないと、今後の中央情勢を見誤ることになる。

 実際に、反政府デモに参加していたイラン国民が1000人単位で犠牲になっているとも囁かれている。

 そこに今回の米国とイランをめぐる「危機」の後半部分であるが、1月8日にイラン革命防衛隊がテヘラン上空でウクライナ航空機をミサイルで撃墜してしまい、イラン人やイラン系カナダ人を中心に176名もの犠牲者がでてしまった。 

 ここでもイラン政府の「隠匿体質」が発揮され、墜落現場を大急ぎでブルドーザーで片付けミサイルによる撃墜の痕跡を隠そうとしたものの、決定的映像が米軍などから公表されて隠せなくなり、3日後には「誤射」してしまったとの公表と謝罪に追い込まれた。正確には「誤射」もウソで、照準を定めて撃墜している。

 そこでイラン国民のイラン政府への不満がさらに大きくなり、逆に反米、反イスラエルの動きがしぼんでしまった。

 つまりイスラム教(シーア派)の最高指導者であるハメネイ師を中心とするイラン政府の基盤が「予想以上に揺らいでいる」恐れがあり、今後の展開によってはイラン国民による現政権打破などの政変が起こる可能性もないではない。トランプ大統領はわざわざ英語とアラビア語のツイッターでイランの反政府勢力への支持を表明している。

 しかし仮にもイスラム教(シーア派)を中心とするイランの現体制が崩壊するとなると、中東のみならず世界の政治バランスが大きく変化し、その影響は簡単に理解できるものではない。いまのところその可能性はまだ低いと考えるが、少なくともイラン国内における反政府運動の動向には注目しておかなければならない。非常に限られた(重要部分が隠蔽された)現地からの情報だけでは不十分である。

 そもそも中東への軍事的関与を徐々に減らし、武器輸出など商業的関与に軸足を置きたいトランプ大統領が、なぜ1月3日に突然ソレイマニ司令官を殺害したのかについては諸説ある。しかしそれによって「これまであまり知られていなかった」イラン国民のイラン政府に対する不満が「爆発寸前」であることが認識されたとすれば、それが最大の「功績」だったことになる。

 ただイランに限らずイスラム教を中心とした中東の混乱の歴史は1400年近くも繰り広げられているため、とくにイスラム教から遠い「多神教」の日本では理解が難しいものである。

  安倍首相が4日間だけサウジアラビアなどを歴訪しただけでは、何の影響力も残せない。イスラム教と中東の歴史は、別の機会に「じっくりと」解説するつもりである。

2020年1月18日