2022/05/25(水)

17時48分14秒

The ST

世界の出来事を独自の見解で読み解く 刺激的金融ブログ

検索

ドル/円

SMBC日興証券の相場操縦について考える

| 個別企業編 | SMBC日興証券 | 2022年3月09日 |

SMBC日興証券の相場操縦について考える

 東京地検特捜部は3月4日の午後10時時過ぎ、特定銘柄の株価を「不正に維持した」疑いが強まったとして三井住友銀行フィナンシャル・グループのSMBC日興証券を強制捜査し、日付が変わった翌5日の午前零時半過ぎに幹部4名を金融商品法違反(相場操縦)の容疑で逮捕した。深夜の逮捕劇となった理由はよくわからない。

 マスコミは一斉に、証券市場のあらゆる情報が集まり高いコンプライアンス(法令遵守)が求められる大手証券会社が相場操縦容疑で強制捜査を受けるのは極めて異例であり、特捜部は「組織ぐるみ(会社ぐるみ)」の犯罪も視野に入れて今後も捜査していくと一斉に報じている。この辺が特捜部お得意の「判例づくり」と定期的に行う証券市場の「浄化作戦」とマスコミを使った「世論形成」のポイントと思われる。

 逮捕された幹部4名とは、トレバー・ヒル専務執行役員(51歳、エクイティ本部長兼調査共同本部長)、アレクサンドル・アヴァキャンツ執行役員(44歳、エクイティ副本部長兼エクイティ共同部長)、山田誠エクイティ部部長(44歳)、それに岡崎信一郎エクイティ・プロダクツ・ソリューション部部長(56歳)である。4名とも5日付でそれぞれの役職(だけ)を解任されているが、外国人2名の執行役員ポストはそのままである。

 4名の中でトレバー・ヒル容疑者はUBS証券の株式本部長から2014年に入社して2020年に専務執行役員まで登りつめ、アヴァキャンツ容疑者はドイツ証券やシティグループ、山田容疑者は2015年にゴールドマン・サックスからそれぞれ入社している。つまり典型的な「傭兵部隊」である。比較的エクイティ部門が弱いとされていたSMBC日興証券が、収益拡大のためにスカウトし「エクイティ本部」の主要ポストに据えていた。

「傭兵部隊」は特別の報酬体系となっており、収益に応じて多くのインセンティブが支払われる。本件に限らないが(米国やとくに欧州でも多く見られるが)「傭兵部隊」は収益を追求しすぎるもので、それに本社トップの理解とリスク管理が追い着かず、大きな損失や問題ある取引が後から露呈するケースが多い。ただ今回のSMBC日興証券のケースがそれに該当しているかは決めつけられない。

 同時に逮捕された岡崎容疑者はプロパーで「傭兵部隊」から供給される株式を機関投資家などに販売する責任者だったため、「会社ぐるみ」とするために逮捕されたはずである。部署をまたいで情報共有した社内電話の音声データが特捜部に押収されているとも報じられているが、これも同じ目的である。

 さて今回の容疑とは、2019年12月~2020年11月に取り扱った5銘柄を巡り不正に株価を「維持させた」株価操縦の疑いとされている。またさらに5銘柄が疑わしいとされる。しかし株価操縦からイメージされる特定銘柄(特に小型株や流動性の少ない銘柄)を集中的に買い上げて株価を「つり上げた」わけではない。
 
 本件については2021年6月に証券取引等監視委員会が強制調査に乗り出し(日興証券が2021年11月に調査の事実を認めた)、そこに2022年2月2日までに特捜部が加わり、今回の強制捜査、逮捕劇となった。かなり長い時間をかけて「どういう判例づくりと世論形勢の材料に使うか」を検討してきたはずである。またここで強制調査と強制捜査が出てくるが、その違いは令状の有無である。しかし令状がなくても「何から何まで押収していく」ところは同じである。

 また実際に不正が疑われているのは、大株主が保有株を大量に売った際に値崩れを避けるため、証券会社が立ち合い取引時間外に株を買い取り、買い付け先を募る「ブロックオファー」と呼ばれる取引とされている。

 SMBC日興証券は、売り手が決まった日の終値を大株主から買い取る基準価格としているが、終値が低いと買い取り価格も低くなり、取引が不成立となる可能性がある。このため幹部らは市場が閉じる午後3時の直前に、複数の銘柄の買い注文を繰り返した疑いがあるという。つまり特捜部はブロックオファー取引の買い取り基準額となる終値を高値で維持しようとしたところが不正と考えていることになる。

 しかしこれは不思議な理屈である。

 つまり終値が低いと(売り手が引っ込み)取引が不成立になるため、市場が閉じる直前に自己勘定で買い注文を繰り返し出して、売り手から「わざわざ」高値で買い取っていたことになる。売り手からは出来るだけ安く買い取った方が利益も多いに決まっている。

 だいたいブロックオファーでも、引け値だけで買い取り価格を決める(もちろんいくらかディスカウントするが)ケースは少なく、普通は最初から取引日のVWAP(加重平均取引価格)のいくらディスカウントで買い取ると決めておくケースが多い。そうすると証券会社は1日かけて(じっくりと)買い取る株式を顧客にオファーすることができるため、結果的に売り手にとっても有利な価格で買い取れることが多い。

 この不思議な理屈へのヒントを特捜部出身の郷原信郎弁護士が2021年11月時点で指摘している。SMBC日興証券が「株価操縦」の疑いで調査を受けていると公表した時である。

 相場を変動させるべき売買を行っても、「取引を誘引する目的」がなければ相場操縦の犯罪は成立しない。その「取引を誘引する目的」とは、「人為的な操作」を加えて相場を変動させるにも関わらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものと誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的(最高裁判例)となる。

 つまり郷原弁護士は、相場を変動(維持)させるべき売買を行った結果、株価が下がらず売り手が引っ込まず「ブロックオファー」が成立するため「取引を誘引する目的」に該当して相場操縦の犯罪が成立するという「無理のある構成」と解説している。

 しかしそこは天下の特捜部なので、無理があろうとなかろうと因果関係が説明できる限り、SMBC日興証券の「会社ぐるみ」も含めて粛々と有罪判決となるはずである。同時に新たな判例が出来上がり相場操縦による摘発が容易となり、低迷する株式市場がまた一段と委縮することになる。

2022年3月9日

 

The Stray Times(有料版)の予告   150回目

| 有料版記事予告 | 2022年3月06日 |

The Stray Times(有料版)の予告   150回目

3月7日(月曜日)の夕方に予定通り更新します。以下、予定内容です。

1 特別特集  報道されないロシアによるウクライナ侵攻の「深層」

今週もまたロシアによるウクライナ侵攻であるが、そろそろ日本で報道されていない「深層」についても目を向けるべきと考える。

日本にとっては海を挟んでいるとはいえロシアはウクライナと同じ「隣国」であり、またもっと厄介な中国や北朝鮮も(あるいは韓国も)「隣国」であるため、報道だけを鵜呑みにするだけでは不十分と感じるからである。

とはいっても「深層」はあまりにも多いため、厳選してお届けしたい。

今週の「評価すべき銘柄」   バークシャーハサウェイ

 先週はこのコーナーをお休みしたので、今週は「特別に評価すべき銘柄」を取り上げたい。

 今年も2月26日にバフェットの年次書簡「株主への手紙」が公開された。とくに今年に入ってからNYダウは大きく下落しているが、バークシャーの株価は7%上昇している。バフェットの「永遠に変わらない投資哲学」を反映していると感じる。
 
 そこでその「投資哲学」に改めて「じっくり」触れてみたいと思う。

3、お勧め「書籍」コーナー

 今週はお勧めしたい「書籍」が2冊あり、迷っています。

2022年3月6日

最新有料記事サンプル


2022年5月23日配信分
今週の「警戒すべき」銘柄   楽天グループ

今週の「警戒すべき」銘柄   楽天グループ

 まずあまり関係がなさそうな話から始める。

 先週末(5月20日)に発表された4月の全国消費者物価指数は、総合で前年同月比2.5%上昇(3月は同1.2%上昇)、除く生鮮食料品では同2.1%上昇(3月は同0.8%上昇)と、消費税上げの影響を除くと2008年9月以来…


2022年5月23日配信分
特別特集  米国株はまだ下がるのか、そろそろ下げ止まり反発するのか?

特別特集  米国株はまだ下がるのか、そろそろ下げ止まり反発するのか?

その1  最初に問題提起

 米国株を中心に考える理由は、依然として米国株の動きが世界の株価に大きな影響を与えているからと、米国の物価、経済活動、企業業績、金融政策等が株価に与える影響が比較的「理論通り」だからである…


2022年5月23日配信分
お勧め「書籍」コーナー

お勧め「書籍」コーナー

 今週は百田尚樹氏が書いた「最初のミステリー」が文庫化されたタイミングでご紹介する。実は百田氏の作品は「日本国紀」が同じように文庫化されたタイミングで読んだだけである。

 このコーナーでもご紹介した日本通史であるが、ところどころ創作が入っており、歴史書なのか歴…