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円安を止めろ!

| 為替編 | ドル(円) | 2021年11月19日 |

円安を止めろ!

 最近何度か書いている「檄文」であるが、こう書くと「そうでなくても経済成長も賃金上昇も世界各国に見劣る日本経済がさらに円高でダメージを受け、辛うじて高止まっている日経平均も急落してしまう」と批判のオンパレードになりそうである。

 しかし現実はそうではない。少なくとも円の実力低下「つまり必要以上の円安」が日本経済を縮小させ、日本人をより貧しくさせる主要因なのである。

 国際決済銀行(BIS)が11月17日に発表した10月の円の実質実効為替レート(注)は68.71で、1972年の67台に接近している。この1972年とはニクソンショック(1971年8月15日)で1ドル=360円時代が終焉し、スミソニアン会議で1ドル=308円で再固定していた「最後の固定相場時代」である。

(注)実質実効為替レートとは、円と他の全通貨との為替レートを貿易量などでウエイト付けした実効為替レートを、さらに各国の物価上昇率で調整したものである。毎日「目に見える」数字ではなくBISも年4回しか発表しないが、円の「本当の実力」を反映しているため趨勢は理解しておく必要がある。

 過去の実質実効為替レートは、1ドル=308円だった1972年の67台から、日米通商交渉がこじれて一時1ドル=79.75円の円高となった1995年4月が150の最高値である。民主党政権時代の日本経済の閉塞感に東日本大震災による本邦機関投資家の外貨引き揚げが加わり一時1ドル=75.32円の史上最高値となった2011年10月が103である。2012年12月から始まったアベノミクスで円高が急激に修正されて一時1ドル=125.86円となった2015年7月が現在よりさら安い67.60であった。

 2021年10月の円の実質実効為替レートは先述の68.71であるが、足元の円相場はさらに下落しているため実質実効為替レートは変動相場となって以来の安値であるこの67.60も下回っていると思われる。つまり現在の円の実力は、約50年前の「固定相場時代の最後」まで低下しているわけである。

 こうして見ていくと円の実質実効為替レートは円の対他通貨(とくにドル)の名目為替レートよりも、日本と他国との物価上昇率の差が大きく反映されている。各国の物価上昇率の差は突き詰めれば各国の経済成長率の差であるため、ここ30年ほど日本経済がほとんど成長していないことが、円の実質実効為替レートの長期下落=日本経済の長期低落に直結していることになる。

 2012年12月に始まったアベノミクス(とくに2013年4月からの日銀「異次元」緩和)も当初2年ほどで「超円高」と「株安」を修正させた「一時的効果」はあった。しかしその後も「異次元」緩和に頼る「円安政策」を現在まで継続しているため、気がつくと日本経済が国際比較で「すっかり」縮小してしまったことになる。

 当然に日本人の賃金水準は伸びず、気がつくと日本人も国際比較で「大変に貧しく」なってしまった。

 2020年の水準で(当然に2021年の水準ではもっと差が出ているが)OECDの平均賃金データでみると、日本は38514ドルと、米国の69391ドルの55%でしかない。同じく2020年の1人当たり名目GDPも、日本は40146ドルで、やはり米国の63415ドルの63%でしかない。

 現在の日本経済は「大変に貧しく」なっているが、とくに賃金で見ると「もっと貧しく」なっている。2020年のデータもコロナウイルスの影響をある程度は織り込んでいるが、コロナウイルスから世界経済が回復している2021年の現時点では、円安加速と相まって日本経済は「もっと」縮小し、日本人は「もっともっと」貧しくなっている。

 2000年の水準では、日本の1人当たり名目GDPは39172ドルで、米国の36317ドルの108%あった。ところが2000年から2020年までの20年間で、自国通貨建て1人当たり日本の名目GDPは422万円から428万円まで1.4%しか増えなかったが、米国は36317ドルから63358ドルまで74%も増えている。

 実は2000年の円の対ドル名目為替レート年間平均は1ドル=107.76円で、2020年の106.77円と「ほとんど」変わらない。しかしその間に日本の1人あたり名目GDPはドル建てで米国の63%まで低下してしまった。円の対ドルの名目為替レートがもっと円高になっていなければならなかったことになる。

 ところが2021年に入るとさらに円安が進み、11月18日現在では1ドル=114.20円となっている。つまり足元では日米のドル換算した経済格差はもっと「絶望的」に拡大していることになる。

 ここまで書くと、確かに円安は日本経済を縮小させて日本人を貧しくしているが、日本経済のゼロ成長は「円安」が原因ではないだろう?との反論が出てくる。

 ところがそうでもない。まず日本の貿易構造は輸出企業の生産拠点の海外移転が進んでおり、ドル建てで取引されるエネルギー価格や資源価格の最近の急上昇は円安とのダブルパンチとなるなど、最近は円安デメリットの方が大きいはずである。

 ここで日本の為替政策が「長期にわたった円安政策を転換して緩やかな円高を目指す」とでも宣言すれば、米国経済の状況から「ドル高も限界にきている」とも感じられるため、世界の投資資金が「かなり」日本に向かうはずである。

 これまでも世界の投資資金は少し日本に向かっていたが、それは「円安と日本経済の縮小で何でも安く見えるから」という日本から見て「悪い資金流入」でしかない。それが「円高とそれに伴う日本経済の(世界から見た)拡大」による「良い資金流入」に変わり、日本経済の拡大にも寄与するはずである。この辺は別の機会にもっと詳しく解説したい。

 そういう意味では日銀が2021年3月からステルス型テーパリングに踏み切っていることを、もっと堂々と世界に公言するだけで「かなり」の効果があると考える。

2021年11月19日