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矢野財務次官の「バラマキ合戦」批判をこう考える

| 官僚組織編 | 政治・政策提言 | 日本 | 2021年10月14日 |

矢野財務次官の「バラマキ合戦」批判をこう考える

 本日(10月14日)に衆議院が解散され、19日公示、31日投開票となる。自民党の選挙公約も発表されているが、岸田首相の総裁選からの公約だったはずの「令和版所得倍増」「子育て世帯の住居・教育支援」から「党役員任期3年など党改革案」まで、すっぽりと抜け落ちている。

 就任直後から岸田政権は、それまでの安倍・菅政権とは大きく違い自民党派閥や官僚組織に対する「気配り」を重視すると言われてきた。まさにその通りであるが「早くも」存在感が薄れてきている。内政だけでなく、衆議院選の投開票で10月30~31日にローマで対面開催されるG20を欠席するため、この重要なタイミングの外交デビューもできないことになる。

 さてそんな中の10月8日、7月に就任した矢野財務次官が「与野党のバラマキ合戦」を批判するレポートを文芸春秋11月号に掲載し、財政赤字拡大に強い懸念を示した。

 財務省はもともと財政再建論ばかりであるが、その中でも矢野次官は特に積極的な財政再建論者である。1985年入省の矢野次官は、次官レースでは3番手だったが、3期上の福田元次官のセクハラ、佐川元国税庁長官の文書改竄指示での辞任に複雑な省内力学が加わり、東大閥ではない(一橋大学卒の)異例の財務次官となっていた。

 意外に思われるが安倍政権時代にプライマリーバランスの赤字は、2013年度の32兆円から2019年度の9.2兆円まで急激に減っていた。消費増税による税収増加が主因ではあるが、安倍政権時代の財政政策は財務省の意を受けて「財政再建」を実行していたことになる。2020年度はコロナウイルス対策の3次にわたる補正予算でプライマリーバランスの赤字は90兆円となったが、その予算の使い方が適正なものだったかとの疑問は大いに残るが、未曽有の感染拡大による経済停止の中で「日本経済の沈没」を辛うじて防いだはずである。

 そこで矢野次官の言う「与野党によるバラマキ合戦」とは、このコロナ対策を含む「非常時の財政支援」を指していることになる。この「非常事態の財政支援」が不十分であればあるほど、もともと低成長である日本経済がさらに沈み、今後の財政赤字がさらに拡大する結果にしかならない。

 そもそも財政政策とは、国民が支払う税金を国民のためにどう使うかを国民の代表(国会)が決める大原則で、財務省が口を挟むべきものではない。そうでなくても財務省は2009~2012年の民主党政権の「未熟さ」に付け込んで5%だった消費税を10%に引き上げさせ(この時は自民党も賛成した)、安倍政権の再々の抵抗を退けて2019年10月から10%にしてしまった。その直後にコロナウイルスが襲ったが、日本経済は消費増税でコロナ前の2019年10~12月期からマイナス成長に陥っていた。

 それでは矢野次官に限らず財務省の言う日本の財政状態は危機的なのか?

 2021年3月末の国債発行残高(政府短期証券を含む)は1216兆で、前年度末から101兆円増えている。それに対して同時点における家計金融資産は1946兆円で、前年度末から121兆円増えている。家計金融資産には一部の株式関連商品や外貨建て商品が含まれるが、その大部分が円建て預金または保険・年金である。

 また2021年6月末において外国人投資家が国債を161兆円(発行額の13.2%、うち85兆円が政府短期証券)保有しているが、外国人の国債保有がなくても日本国債は「十分すぎるほど」国内の円資金(余剰資金)で吸収できている。

 また同じく2021年6月末時点で日銀が530兆円(43.3%)の国債を保有しているが、その資金はそっくり537兆円の日銀当座預金で賄われている。日銀当座預金の原資は各金融機関に積み上がった預金であり、日銀保有の国債が国内の円資金(余剰資金)だけで吸収できていることには違いはない。

 日本は国内経済が成長を止める前に十分に国内に資産が蓄積された「稀有な国」である。基軸通貨の座に胡坐をかき海外から資金を吸い上げ続けないと生きていけない米国や、海外の植民地から搾取した資産の蓄積で今も生き残る英仏や(搾取した資産をとっくに吐き出したスペインやポルトガルもあるが)、国内に資産が積みあがる前に経済が減速し不良資産が山のように残った中国とは根本的に違う。

日本では戦後の高度成長を支えた先輩方に感謝しながら、現在の国債発行残高など全く気にせず、ここから日本経済の成長戦略を練り上げればよいだけの「幸せな国」なのである。日本の若者が将来に希望を持てない現状こそ、政府と財務省など官僚組織の「大罪」である。

国債の発行残高が増大するとハイパーインフレと金利急騰を招き、日銀が債務超過になるとの「都市伝説」があるが、先進国においていち早く成長を止めた日本の金利が上昇するはずがない。実は2021年4月以降、日銀の国債保有残高は減少している。買入れ額より償還額が多いからで、日銀は世界に先駆けて「テーパリング」に踏み切っている。そんな日本で「円安」になる方がおかしい。

成長を止めた日本では、海外資源高による「少しのインフレ」でも回避しなければならない。成長率がゼロの日本においては、1%の物価上昇でもダメージとなる。そのためには「2%の物価上昇目標」といった「実現してしまったら大変なことになる目標」など早く捨て、「テーパリング開始」も世界に堂々と公言すれば、「円高」で資源高を吸収できるはずである。

本来はもっと明確に「円高政策転換」を世界に公言すれば、ゼロ金利の日本国債でも「上昇する円」と組み合わせれば、海外から見れば大変に魅力的な投資物件となる。世界の投資資金は簡単になくならないため、1000兆円くらいの国債残高など「あっという間に」吸収され、同時に円が国際化して「円の基軸通貨化」も実現するはずである。

発想の転換が必要である。

2021年10月14日