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ますます複雑怪奇になる世界の株式市場

| 中央銀行・金融情勢・提言編 | 株式編 | 米国 | 世界 | 2019年3月05日 |

先週末(3月1日)のNYダウは26026ドル(終値、以下同じ)まで回復していた。昨年(2018年)10月3日に26828ドルと史上最高値を更新したところから急落し、同12月24日に21792ドルまで約5000ドル以上の急落となり、そこから反発して再び史上最高値まであと約800ドルまで回復したことになる。本日(3月4日)はさすがに206ドル安の25819ドルとなったが、本格的な調整に入ったとも思えない。

ちなみにトランプが大統領に当選する直前の安値は2016年11月4日の17888ドルなので(当時はトランプ大統領の当選は米国だけでなく世界中にとって「災難」であると考えられていた)、NYダウはそこから先週末までに約8000ドルも上昇していることになる。少なくとも「これまでのところ」トランプの政策は米国株式それに海外の株式に結果的に大きく貢献していることになる。

株式上昇の最大の理由はトランプが強行した10年間で1.5兆ドルの大型減税と、米国企業が海外にため込んだドルを一度だけ低税率で米国に持ち帰ることを認めたからとされている。もっとも後者はだいたい自社株買いの原資となっただけであるが、それも米国株式を上昇させた要因である。

ところが現在の米国株式(に限らず新興国を含む世界の株式)を取り巻く環境は、日に日に悪化しており、それにもかかわらず米国株式が大きく回復し、さらに通貨ドルまでジリ高となっている現状には大きな違和感がある。本誌はいつも「相場は常に正しい」と考えているため、ここまでの常識とされている経済・金融・それに政治を含む各要因と株価の関係を考え直す必要があることになる。それも何か「今まで考えてもいなかった」発想の転換が必要となりそうである。

まず2月27~28日にベトナムのハノイで第2回米朝首脳会談が行われた。その結果はすでに報道されているように完全決裂であった。しかしよく考えれば核開発を完全にやめさせたいトランプと、経済制裁を完全に辞めさせたい金正恩の思惑は、最初からかみ合うはずがなく、また両者で中間まで譲歩できるものでもなく、最初から予想された結果である。強いていえば元顧問弁護士であるマイケル・コーエンが下院監視・政府改革委員会などで証言するため、トランプが意識的に火の粉を避けるためにハノイに逃避したとさえ考えたくなる。

司法取引に応じて禁固3年が確定しており、トランプが恩赦を与える気配もないコーエン氏の証言は迫力があり、ロシアゲート事件だけでなく大統領選挙中にもロシアとのビジネスを続けていたトランプの「正体」がかなり明らかになった。しかし米国株式は全く気にせず、さらに上昇している。

ここですぐに弾劾裁判が発議されるとは思わないが、問題山積の米国の政治がますます停滞することになる。最も火急の案件は、3月2日に失効している「債務上限枠の停止」であり、早急に22兆円ともいわれる債務上限を議会通過させなければならない。財務省内のやりくりで9月ころまでは国庫が空っぽになることはないが、このままだと今後の国債発行というよりトランプの行動が大きく制限されることになる。これも米国株式にとって上昇要因ではないはずであるが、あまり気にされているようには見えない。

さらに3月1日の期限を延長した米中貿易交渉も、一時は「水面下で解決」との噂も流れたが、もちろんそんなはずがなく、ここからが本番となる。中国サイドも習近平が成長目標を6.0~6.5%程度まで引き下げるようであり、中央銀行である中国人民銀行も預金準備率を何度も引き下げ、市中に大量の資金を供給し始めている。中国は実質的にドル資産を裏付けに信用創造する「実質ドル本位制」であるが、中国人民銀行の総資産に占める外貨(主にドル)の比率は数年前まで85%程度であったが、直近では60%まで激減している。つまり人民元の価値を薄めて景気を回復させようとしていることになる。

中国の官民の総借入残高は前年比10%増の3400兆円もあるが、それがさらに大きく膨らみそうである。もちろん健全な姿ではなく、いずれバブルが中国発ではじけることになりそうである。

さらにFRBは利上げを打ち止め、FRBの資産売却も年内に中止すると発表している。これ自体は株価の上昇要因かもしれないが、本来はドル安になるはずの通貨市場では、逆にドル高が進んで1ドル=112円台となっている。そこにドル高が加わっても米国株は上昇していることになる。

米国株を含む世界の株式市場の背景には、もちろんリーマンショック以降の世界の中央銀行による大規模な金融緩和とくに資金供給であることは間違いない。FRBが世界で最初に金融緩和を打ち切り利上げを始めているが、結局のところ(トランプの圧力もあり)政策金利で2.25~2.50%で「いったん」打ち切りとなりそうである。リーマンショック以前の2007年ころには5.25%もあった。ただ米国でも潜在成長率が2%程度まで落ちているため、この辺が利上げの限界だったのかもしれない。

一方のFRBの保有資産は、リーマンショック直前の9000億ドルからピークには4.5兆ドルまで膨らんでいた、イエレン前議長時代の2018年9月から減少させ、最終的には2.5兆ドルあたりまで減らす予定だったはずである。それも4兆。ドル前後で打ち止めになるようである。減らしたうちに入らない。

つまり米国だけでなく世界経済は、リーマンショック以降の世界的な金融緩和とくに量的緩和がもたらす資産効果でかろうじて回復していたが、世界的な潜在成長率の低下に目をつぶり、再び金融緩和・量的緩和の「ご利益」に縋ろう(すがろう)としているような気がする。世界的な株価上昇は、その辺を感じ取っているのかもしれない。

しかしこれは今後こそ「世界的な資産インフレ」と「世界的な貸付債権の劣化」を呼ぶことになる。

平成31年3月4日