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廣済堂の不思議なTOB

| 個別企業編 | 投資家編 | 株式編 | 日本 | 廣済堂 | 2019年1月22日 |

1月17日に、米ベインキャピタルが東証一部上場の廣済堂を1株=610円でTOB(株式公開買い付け)すると発表した。発表直前となる17日終値が419円で、そこからまだ2営業日しか経過していないため、本日(1月21日)の終値も579円(この辺の株価ならストップ高は80円)とTOB価格に届かず、従って出来高もほとんどない。明日(1月22日)にはTOB価格に株価が追いつくため、活発な出来高となるはずである。ただ1つだけ確かめたいことがあるが、それは最後に出てくる。

ベインキャピタルといえば、ジュピターショップチャンネル、すかいらーく マクロミル、ベルシステム24、雪国まいたけ、アサツーディ・ケイ、そして昨年春には東芝メモリのTOBを実施しており、日本におけるTOBでは比較的活発なファンドである。

買い付け期間は1月18日から3月1日までで、買い付けの上限は発行済み総株数から自己株などを控除した24,913,439株(ほぼ発行済みの全株)、下限は3分の2の議決権を確保でき16,609,000株となっている。下限に達しない場合は不成立となり1株も買い入れない。議決権の3分の2の確保にこだわる理由は、TOB成立後に定款変更して単位株を端株にして全株を取得するためである。臨時株主総会で特別決議が必要だからである。

計算上では1株=610円で全株を取得すると152億円程度が必要であるが、普通のTOBでは自己資金が
3割(つまり45億円)程度であり、残りは外部資金(つまり借入)で賄う。TOBが成立するとベインキャピタルがこのTOBのための設立したペーパーカンパニーと廣済堂を合併させるために、その借入金を返済するのは廣済堂であり、ペインキャピタルではない。そして廣済堂の株式100%はベインキャピタルが保有するため、将来再上場となればその公開益はすべてベインキャピタルのものになる。さらについでに言うと税金も発生しない。だからやめられないのであろう。

当然に廣済堂は上場廃止となり、その後の経営状況が非常にわかりにくくなり、ベインキャピタル(に限らずこういうTOBを仕掛けるファンド)だけが大儲けできる仕組みでしかない。必ずTOBの枕詞に着く「株主や毎年の決算を気にせず思い切った経営を行い企業価値を飛躍的に向上させる」とは嘘っぱちである。TOB成立の次の日から(自らを買収したための借金の返済)が最優先となり、厳しいリストラと設備投資の大幅カットが強いられることになる。

それでもなぜTOBが無くならないのか? まずそのヒントとして今回は一部の報道ではTOBではなくMBOというを表現が使われている。MBOとは現経営陣も一部を出資し、ベインキャピタルと現経営陣が今後も攻撃的な共同経営をする、あるいはTOBされた新会社の社長に現社長を起用するなど「甘い言葉」を囁かれているからであるが、だいたいこういう現社長は数か月以内に放逐されてしまう。一般株主がいなくなっているため、簡単にクビにできる。気がついたときはもう遅いのである。それでも創業家に頭が上がらないサラリーマン社長(廣済堂もこれに符合するはずである)などが簡単に騙されてしまうため、TOBが無くならず悲劇が続くのである。

さらに廣済堂はTOB発表前のPBR(株価純資産倍率)が0.36倍しかなく、TOB価格の610円で計算しても0.55倍くらいしかない。つまり日本の株式市場は廣済堂を正統な株価(PBRが1.0前後)の約半値で米ベインキャピタルに売り渡そうとしていることになる。廣済堂に限らず古くて歴史のある重厚長大産業や金融機関なども1.0を大きく下回ったままである。

かたや新規上場直後の新興株や、ZOZOのようにちょっとマスコミに(本業以外で)騒がれているような企業のPBRは数十倍やそれ以上であることも多い。これらの歪みは本年(2019年)にはかなり修正されるような気がしているが、日本の株式市場がそれだけ歪(いびつ)な形をしていることになる。つまり日本の株式市場が銘柄によって株価のばらつきが大きすぎることは確かである。

しかしそうはいっても廣済堂は単なる印刷会社ではなく、ほとんど無競争の火葬場や葬儀屋の最大手であり、ベインキャピタルの甘言に乗ってしまった現サラリーマン社長や同じくTOB賛成の機関決定をしてしまったサラリーマン経営陣の「犯罪的凡ミス」としか言いようがない。

たださすがに今回は買い付け価格を引き上げたカウンターTOBが現れると予想する。TOBは違う価格で何本でも違う投資家が行ってもよく、一度応募した株主も何度も引っ込めることもできる。その辺の見極めは、本日(1月22日)の株価が610円のTOB価格を上回って取引されるかどうかであるが、さてどうなるか?

平成31年1月21日